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千葉大学講義|2020年1月7日

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給料の考え方

で、僕はその成績をもって26歳で総料理長になります。
僕さっき、自分の給料を30万円にしたって言ったじゃないですか?

クイズね。30万円の僕の給料、1年後にいくらになったと思いますか?


① 同じ30万円
② 50万円
③ 100万円


①だと思う人? おっ、1人かな?
②の50万になったんじゃないかなあと思う人? はい、3の1くらい。
③の100万になったんじゃないと思う人? ありがとうございます。
たいしたクイズじゃないんだけど、今の30万、50万、100万っていうところに実はポイントがあって。
30万ってなった場合、たぶん、今度は僕のモチベーションが保てないかなって思う。
それと、周りのモチベーションも保てないんじゃないか。

これだけやってきた自分たちのリーダーの給料が変わらないって、楽しいそれ? みんなのモチベーションも下がっちゃわない?
こうなってくるとどうなるかっていうと、今度は部下たちが「野口さん、給料取りましょう、もっと取ってくれ」って言い始めるよね。

だから当然、上がる方向になる。
僕はホントはね、欲しいと思ってなかった、その時は。

で、会社から提示されたのは100万円でした。

「おまえは100万払ってもいい価値がある」って言われました。
それで僕が受け取ったのは50万円っていう。

だから正解は50万円。

どうすればみんなが気持ち良く働けるか?

僕、経営を勉強してたから100万円取っていい数字ってなんとなくわかるんです。

なんとなくっていうか、もうわかってたんだけど、それで今度何をしたかっていうと、「そのお金があるならボーナスをくれ」って言った。

この時、みんなボーナスがなかったんです。つまり、ボーナスで振り分けました。
どういうことかというと、100万円僕がとると、ボーナスがこれっぽっちになる可能性がある。でも僕が50万円だったら、そのお金ってどんどん会社に貯まっていくから、みんなに振り分けることができるようになる。それを僕は選択した。
そうしたときにまたどういうことが起きるかというと、ボーナスが出るんでさらにみんなのモチベーションが上がるんだよね。しかもトップもそれなりの金額をもらっているから、みんな納得して働く。
こういう経営だけじゃなくて、どうやってみんなが気持ち良く働けるかっていうことを考えながらこの会社ではやってきました。

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飲食業は料理の腕だけでは勝てない

この会社で見たこと、というかこれはずっと見てきたことなんだけど、料理人は料理が上手になると、自分のお店を出したい、起業したい、独立したいってだいたいなる。

でも、だいたいの人が料理だけじゃ勝てないんです。美味しい料理を作れば勝てる業界じゃない。
それはなんでかっていうと、たぶんすごくシンプルなんだけど、汚いお店に行きたいっていう人はそんなにいないと思うんだよね。まあ、専門的になると逆の発想で、ちょっと汚い方が使いやすいっていうのはあったりするんだけど、基本的に人は汚いところには入りたくない。

そして接客ね。「美味しいお水ですよ」って丁寧に置かれたのと、「はいどうぞー」って置かれたのでは、同じ1000円だったらどっちが気持ちいいか? っていう話になる。

飲食企業は、味だけじゃないところも勝負の世界なんだよね。
だから、料理人っていうのは自分が料理をやってきて美味しいものが作れるっていう自信があって独立するんだけど、失敗事例、僕らはめちゃくちゃ見てきてます。僕がお世話になった方たちで失敗してる方もいるし、僕の周りの人たちも失敗してる。
外食産業って、すごく参入障壁が低い。要は独立しやすい業界なんだけど、廃業率も圧倒的に高い。めちゃくちゃつぶれる業界。

それはなんでかっていうと、経営の部分をちゃんと勉強してないで独立しちゃうっていうところが多いから。
これからみんなが起業する時に、「想いとか知識だったり技術だったりがこんなにあるんだから負けないぞ」って思っても負けちゃう時ってあるから、もっともっと幅広く知識を広げていく。

「料理人だから料理ができればいいじゃん」じゃなくて、そこにはそれ以外のことがいっぱいあるわけです。

料理人が負けないフィールドを作りたい

僕は今、商売うまくいってます。前職でもうまくいってました。

それでも、毎日不安。で、その不安要素をつぶしていく感じでやってる。
僕は料理人が負けちゃう業界っていうのに悔しさがある。なぜなら僕は料理人だから。
せっかく苦しい修行をしてきたのに。なおかつ大きい借金背負うんですよ、お店を出す時って、だいたい1000万。かける人は2000〜3000万使ったりするけど。

1000万って普通のサラリーマンじゃ返せないよね。毎月15万円を10年ぐらいかけて返すんだけど、それぐらいの借金を背負ってまでやるんですよ。
苦しい修行に耐えて、「俺はもう自信がある、やってみよう!」って言ってやったら、それだけの借金を背負って、もしかしたら負けちゃう。

ていうか、けっこうな確率で負けちゃう。独立して10年も残ってるお店っていうのは1割ぐらいっていわれてる。それぐらい厳しい業界です。
順風満帆にその会社では活躍させてもらったんだけど、そういう料理人の姿を何度も見てきて、僕はね、料理人が負けないフィールドを作ろうと思って、その思いがものすごく強くなって、自分のお店をやろうと。

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木更津で起業した理由

それで物件探しを始めます。

その会社が東京とか千葉市とかいろんなところに出店していて、僕も総料理長という立場上、いろんなところに行ってたんです。それでいろんなところに行って、いろんな市場調査をして、いろんな物件調査をして、1年ぐらいかけて。
自分の故郷の木更津市も自分の地元だから、どうせ店をやるんならって、いちおう見ました。

結果的に、僕、木更津出身なんだけど木更津で勤めたことがないので、ちょっと不安はあったんだけど、いろんな候補のなかで木更津市にお店を出すことに決めました。
木更津市に出す理由が何だったかっていうと、まずは地元、自分の故郷だっていうこと。
それと—、
ここにいる人たちも田舎出身の人が多いんじゃないかって聞いてるんだけど。都会(東京)からここ(千葉)に来て住んでますっていう人、あんまりいないと思うので僕らの業界も東京にお店とかあるんだけど、そこで出会うスタッフたちは実際はみんな田舎モンなんですよ。

僕はそこで思ったのが、東京で成立させるんじゃなくて田舎で成立させたらカッコいいなと。それが本質だなと。
逆にいうと、東京以外はすべて田舎なんですよ。

そうなったときに、東京以外っていうマーケットの方が実はデカい。ここで成立させるっていうのはすごい重要なことだと。
例えば僕のお店で修行した子が東京で勝負するってことはたぶん、ないんだよね。ほとんどが自分の田舎に帰って商売する。

それを目的として僕は木更津市でやることにしました。

独立から7年で3人が独立

僕は板前なので、日本酒とお魚を軸にした居酒屋さん(ごくりっ)を始めます。

若手を育てたい、料理人の育成をテーマにしたお店なんだけど、繁盛店にならなきゃそういう子たちも来ない。だから繁盛させようと頑張ったんですけど、繁盛しました。

そしたら、やっぱり独立したいっていう子たちがどんどんきます。
で、僕のところで料理を学んで経営を学んで。独立から7年が経ちましたけど、その間にうちから3人が独立しました。3人とも今商売、順調にうまくやってます。これは僕がテーマにしたものが一つ実ったかたちになります。
こうして順調にやってると人も来るし、潤ってくるとお金が貯まるので出店もする。
で、次のお店、洋食とワインの店(ブッフルージュ)っていうのをやるんだけど、これはまた別のテーマをもって始めました。

最初のお店は料理人を育成できるお店、若手が入ってくるお店。今度のお店は何かっていうと、木更津市で商売をうまくやっていると、地域の人たちがいっぱい来るよね。その人たちの中に生産者さんがいる。農家さんとか漁師さんとか。そういう方たちが飲みにきたり食べにきたりする。そうするとね「僕の野菜使ってよ」「僕の魚使ってよ」っていう話になるんですよ。
一番最初のお店って、僕、木更津で勤めたことがなかったので木更津のルートがなかった。なので、全国のルートを使ったお店だったんですよ。
そこに地域の人たちが「僕の野菜を使って」って来たもんだから、使いたいんだけど使えない。今までお付き合いして来た人たちに「さよなら」ってわけにはいかないよね。だから僕がもう一つのお店を出した時に使わせてください、って言って。
で、ブッフルージュっていうお店の開店に至る。

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料理人としてできること

そうやって地域のものを使い始めるうちに、生産者の方たちと顔を付き合わせて一緒に飲む機会も増えるんですよ。

そこで挙がってくるのが、後継者不足とか、高齢化が進んでいるっていう話。

「なんでですか?」って聞くと、「大変だから」。あと「継がせたくない」。それも「なんでですか?」って聞くと、「もうからないよ」。「ああ、なるほど」と。
僕が最初にやってたテーマにちょっと似てるなと思って。

僕は料理人としてどういう協力ができるのかっていうと、彼らの野菜を買うこと、それも付加価値をつけて買うことで協力ができる。例えば100円で売れてるものを150円で僕らが買い取れれば、それだけ農家さんたちが儲かるわけだよね。そういうことをしていこうよ、っていうのを考えてやってるのがこのブッフルージュっていうお店で。
ここも繁盛していくんだけど、そのあとに出てきた問題がもう一つあって。鳥獣被害。イノシシとかシカとかが畑に出てきて作物を荒らしちゃうんですよ。そういう問題が農家さんから出てきて、「ああ、なるほどな」と。
「獣ってそんなにいるんだ?」って話ですが、いるんですよ。
じゃあなんでそんなに出て来るかっていうと、森に食べ物がない、そういう理由もあるんですけど、一番はハンター不足ですね。なんでハンターがいないかっていうと、やっぱり儲からないからなんですね。
ハンター、大変なんですよ。捕まえて、山から2時間以内におろしてきて、検査して、そういう作業があるんだけど、小さいのでも60kgぐらいある。それを山からおろしてくるって大変ですよ。その作業をしたとして数千円、いいところ1万円っていうお金しか出ない。

そうなると、どんどん人がいなくなってくるよね。ハンターがいなくなれば、今度は獣のが数が増えちゃって街に出てくる。
それを食い止めるためにはやっぱりハンターの収入を上げないといけないなあ、と。

そうやってとれた獲物も僕たちは積極的に料理に使おうっていうので始めました。

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これ、イノシシね。捕らえられたものを僕らがこうやって料理にするんです。
これ、ひとつテーマをもった料理なんですけど、これがイノシシのお肉。ソースに使ってるのが—、木更津ってブルーベリーの産地なんですね。加工品としては生産量日本一なのかな。そのブルーベリーとハチミツを使ってる料理なんですよ。
僕、これをもってコンテストで賞をとったんですけど。なんでこれをやってるかっていうと、鳥獣被害の問題のイノシシと、木更津の生産物のブルーベリーと—、あとなぜそこにハチミツを使ったかっていうと、市原市のワンドロップファームっていうところが養蜂をしているんだけど、彼らも鳥獣被害や農業をテーマに、養蜂を通して里山の再生に取り組んでいる、そういうチームなんだけど。

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山って外から見ると緑色なんだけど、地面を見るとまっ茶なんですよ。なんでこんな現象が起きているか?

問題は連鎖している

日本の山っていろいろ今ニュースにもなってるけど、杉の山が多い。杉って針葉樹っていって、年間ずーっと葉がついてるから、地面に日光が射さない状況を作っちゃう。下で植物が育ちにくい環境を作っちゃう。

そうするとどういうことが起きるかというと、イノシシたちは食べ物がないよね。山の中にいても食べ物が少ないから街に出てきちゃう。出てきちゃって、困ってるのが農業。
問題って繋がってるんで、その問題を解決するにはどうすればいいかっていうので、ここ(ワンドロップファーム)は木を伐って花の種を蒔いてる。で花が咲いたら蜂を放って採蜜する。その蜜を僕たちが買う。そのお金を使って里山を再生していく。
これって、ただご飯を食べてるだけなんだけど、もしかしたらこういう里山再生に貢献しているかもしれない。

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すべてこういうものって繋がってるから、なぜ僕たちがこの料理を作ったかっていうと、そういう理由なんです。
こういうことも起業に繋がってるんです。

地域で起業することの意味、それが何なのかっていうと、こういう問題解決をできる人たちを求めているってこと。

僕は料理人だから食を通して地域の問題解決をどうするか考える。1人ではできないから、農家さんやハンターだったり養蜂家のチームと組んで。この料理を一皿食べるとあそこに菜の花畑ができる。そういう素敵なコンセプトでやってるんだけど。

差別化と独自性

こういう商売をして、こういう料理を出していると、他の飲食店との差別化になるんです。他の飲食店でこういうテーマで料理をしてるところってなかなかないから。

そうすると、僕たちのお店っていうのが独自性を築いていくことになる。
こういう活動をずっと続けていくとどういうことになっていくかっていうと、そのノウハウを知りたいっていう会社とかから仕事のオファーがきます。僕たちは今飲食企業として居酒屋と洋食屋の2店舗をやってるんだけど、こういった活動を通してコンサルティングっていう仕事もしてます。
コンサルティング事業をする意味っていうのは1つあって。

ただこれって、ノウハウを提供する、自分たちの武器を晒すことになるわけ。僕たちが「こうやるとうまくいきますよ」っていうのを教えるわけですから。
飲食業界は特にこれがクローズドで、言いたがらない。仕入先とかレシピを見せたがらない業界なんですよ。真似されちゃうから。真似されちゃうと差別化がきかなくなっちゃうからね。
でも僕は「真似していいですよ」って言ってるんです。

これが実は差別化の一つであって。真似して欲しくないクローズドな業界の中で「真似していいですよ」っていう特殊なやつが入ってくると、そこにはライバルがいない。「誰も教えたくない」って言ってるところに「教えます」って言ってるから、潤う。「じゃあ、うちも教えて」「じゃあ、うちも教えて」って手が挙がってくるわけ。

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これからの人材、これからの商売。

あと、千葉県教育庁の産業教育審議委員会の委員もやってます。

これ何やってるかっていうと、「これからの千葉県で活躍できる人たちはどういう教育をしたら育つか」みたいな審議をしています。
僕が思うには、料理人が料理だけをしていればいい時代は終わった。

これからの人材ってどうなの? っていうと、一つのところで一点突破していく時代は終わったんじゃないかなって僕は思ってて。

圧倒的に一つの技術を磨き上げ職人と呼ばれる業界で勝てる人と、マルチにやれる人の二極化かなって思ってて。
僕は料理をやりながら、経営もやって、それを人に教えるっていう行為をしている。それがビジネスとして成り立っている。

どれぐらいの規模でやってるかっていうと、だいたいうちの会社って売上が1億円ぐらいなんですよ。で、コンサルティング事業はどれぐらいかっていうと、その売上1億の利益とコンサルティングだと、コンサルティングの利益の方がでかい。

でもコンサルティングだったら僕1人。こっちは20人ぐらい働いてる。
わかりますか? どっちのほうが効率がいいか。

すごくシンプルですよね。
つまり自分たちが培ったノウハウが商売になる、そういう時代になってくる。ものを作る時代だったのが、知識の共有とかで商売になる時代になっていく。

僕はこのジャンルでもちょっと特殊な働き方をしていると思います。コンサルタントって言われる人たちはいっぱいいるけど、実店舗を持ってとか、職人でっていう人はあんまりいない。
これからは、自分が「ぎゅーっとやってきたものを共有できる人」っていうのがすごい。

やっぱり自分でぎゅーとやってきたことは教えたくないよね。当たり前だよね。苦労したんだもん。めっちゃくちゃ苦労した技術を「はい、どうぞ」って簡単に教えたくない。
でも教える。教えたら、そのぶんまた自分の技術が高まる。

なんで高まるかっていうと、教えるっていう行為が自分を勉強し直すことになるから。

例えば、自分一人で勉強するよりも誰かに教えるってなるとちょっと丁寧にならないかな? 僕はなるのね。だから、自分をさらに勉強し直して教えるっていう。
そうなると自分がまた一つ上がる。だから、どんどんどんどん教え続けるっていうサイクルに入っていく。

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